「いのちの教え」東義雄より【 メルマガvol.239 】 死刑囚・島秋人さんを支えた中学教師の一言

「いのちの教え」東義雄より【 メルマガvol.239 】 死刑囚・島秋人さんを支えた中学教師の一言

死刑囚・島秋人さんを支えた中学教師の一言

人間力を高める生き方を学ぶ古典読書会・人間塾第44回課題図書は東井義男先生の「いのちの教え」であった。
→ 「いのちの教え」東井義男

その中で、私が鮮烈に覚えている一節がある。それは以下のようなものだ。

(以下、引用)

私の大切な蔵書の一冊に、島秋人さんの「遺愛集」という歌集があります。島秋人さんは、昭和四十二年十月二日の朝、死刑囚として、処刑された方です。

子どもの頃、体が弱く、お母さんが結核で早くなくなられたというようなこともあって、学校の成績は最低で、先生から友だちからもばかにされていたようです。当然、心が荒みます。学校を卒業してからも、少年院に送られたり、出してもらったりを繰り返すようになりました。

昭和三十四年のある雨の晩、飢えに耐えかねて、一軒の農家に押し入り、二千円を奪ったのですが、家の人に見つかり、争って奥さんを殺し、死刑囚として投獄されることになってしまいました。

獄中で、小・中学校時代を回想しても、先生からほめられたことは、一度もなかったといいます。でも、ただ一度、中学校の美術の先生から「絵は下手だが、構図は君のが一番いい」と言われたことが、なつかしく思い出され、獄中からその先生に手紙を出しました。

思いがけず、先生ばかりか、先生の奥さんからまで手紙が届きました。奥さんの手紙には、郷里の柏崎市のお寺のことなどを詠んだ短歌が、三首ばかり書き添えられていました。その歌が、島さんの中に潜んでいた歌心を揺り動かし、それから次々に歌が生まれ始めました。

わが死にて つぐない得るや 被害者の
みたまにわびぬ 確定の日に
(中略)

被害者に わびて死刑を 受くべしと
思うに空は 青く生きたし
(中略)

世のために なりて死にたし 死刑囚の
眼はもらい手も なきかもしれぬ 
(中略)

「絵は下手だが、構図は君のが一番いい」と言ってくださった中学校の美術の先生のように、島さんを「点数は悪いが、人間としていちばん大切な美しい心を君は持っている」と、励ましてくれる人が、一人もいなかったのかと思うと、残念でなりません。

(引用終わり)

私はこの話の中で、中学校の美術の先生がもらした「構図は君のが一番いい」というたった一言が、島さんを生涯励まし続けた、ことに衝撃を受けた。

私は死刑囚ではないが、島さんと同じように、自分を悔いる毎日だ。あんなことをしなければ良かった。あの約束も果たせなかった。あの人に迷惑をかけてしまった。そうやって毎日のように自分を責めてしまう。

そんな時に「いや、自分にもいいところはあるではないか」と自らを励ますようにしている。そんな時、無意識に思い出すのが、島さんと同じく、私が中学生だった時の恩師の何気ない一言である。

中学校の修学旅行の時、クラスメイトが体調が悪くなり歩けなくなった。私は、しょうがねぇなぁ、と言いながら彼を背負って歩いた。すると、当時の担任であった英語の先生が嬉しそうにニヤニヤと笑いながらこう言ったのだ。「小倉、おまえはヒューマンだなぁ」
 
もしかしたら、私はそのとき、いいかっこをしたかっただけなのかもしれない。しかし、私はその担任の表情と言葉がいつまでも忘れられずに記憶に残っているのだ。そして、その言葉が私を何度も何度も励ましてくれた。「小倉よ、おまえはヒューマンだ」

たった一言が、一人の人間を生涯にわたって励まし続けることがある。それは恩師の言葉かもしれないし、両親の言葉かもしれない。もしかしたら、その一言が、相手の人生を変えてしまうほどの影響力を与えるかもしれない。

その一言は、必ずと言っていいほどに承認の言葉であるはずだ。「おまえはダメだ」という否定の言葉がその人を生涯励ますことはないだろう。

私は、改めて、恩師の一言に励まされ続けたことに気づき、そして思った。恩師のように、誰かを励まし続ける言葉を吐けるような人間になりたい、と。

気がつけば、人の問題点を指摘する回数が減り、良い点を探して言葉にすることが増えてきたように思う。東井先生のような、私がありたい姿には、まだまだ、ほど遠いけれど。

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