キャンプでスパッと指を試し切り
「あらぁ。2㎝くらいあるかしらねぇ。血が出たでしょ。どうしちゃったの?」看護師さんに聞かれる。
「昨晩キャンプに行っていて、夜中に酔っ払ってサンドイッチ作ろうとして、包丁でスパッと」
「まぁ。野菜切らないで指切っちゃったのね」
「はぁ。そんなもんです」
30分待たされて初老の男性のドクターが来てくれた。
「キャンプで指切ったんだって?包丁はきれいだった?土とかついてなかった?」
破傷風を心配してくれているらしい。
「新品の包丁で、ビニルが中々取れなくて、酔っ払ってたんで、えい!ってやったらスパッと指まで」
「あぁ。指で試し切りしたわけね」
「いや、そういうわけでは、まぁ、そんなもんです」苦笑が漏れてきた。
看護師さんといい、ドクターといい、外科医の返しの定番なのだろうか。
ギャグにしてもらって、少しほぐれた。
「指はさぁ、動かすと傷口開いちゃうから、縫うよ」
あぁ、やっぱり。仕方ない。日曜に診療してもらって簡単な手術までしてもらえるのだ。平日はずっと塞がっていてやるなら今日しかない。ありがたく受けることにした。
「ちょっと痛いよ」
麻酔の針が肉を通り越して骨まで刺さっているのがわかる。思わず声が漏れる痛さだ。
「ごめんね!ごめんね!」と言いながらぐいぐいと刺してくる。
ドクターの軽口のお陰で深刻さが減り、救われた気分で痛みに耐える。
10分ほどで手術は終了。傷口を縫ってもらうなんて何十年ぶりだろうか。3針縫ったらしい。怖くて傷口は見ることができなかった。
ということで、その日に予定していたギターのレッスンも翌日のジムもキャンセルした。しばらくおとなしくしているしかない。
看護師と医師の軽口。ため口。
に、救われた気がする。プロの技術に裏打ちされた、プロの会話術。
これで技術が下手だったら怒るかもしれないけど。
店員さんが気に入って通うブティックみたいな。
ここのスタッフ気に入ったから、通ってみようかな。
もう怪我はしたくないけど。