アドラー心理学 【 連載 】日経ビジネスon line 上司の言いなり「カメレオン係長」を脱皮させる 素直で真面目だが、「喜ばせ屋」のままでは先がない

アドラー心理学 【 連載 】日経ビジネスon line 上司の言いなり「カメレオン係長」を脱皮させる 素直で真面目だが、「喜ばせ屋」のままでは先がない

NBO困ったちゃん
職場の”困ったちゃん”対策はアドラーに聞け

(連載全体のリード)
2015年度年間で最も販売部数が多かったビジネス書「嫌われる勇気〜自己啓発の源流アドラー心理学」(岸見一郎、古賀??著)を筆頭に、拙著「アドラーに学ぶ部下育成の心理学」「アドラーに学ぶ職場コミュニケーションの心理学」「アルフレッドアドラー人生に革命が起きる100の言葉」などで、一躍ブームの様相を呈しているアドラー心理学。本連載では「対人関係の心理学」と呼ばれるアドラー心理学を職場コミュニケーションに応用するものです。職場にはびこる様々な”困ったちゃん”をアドラー心理学で分析。傾向と対策を示します。

上司の言いなり「カメレオン係長」を脱皮させる
素直で真面目だが、「喜ばせ屋」のままでは先がない

今週の困ったちゃん
いい子ちゃんリーダー・八方 美男 係長(33歳)

■ 症例 ■

気配り配慮が行き届き、人当たりもソフト。しかも、上司の意向を汲むのにも長けているため、歴代上司から常に高評価。次期管理職に、と期待され続けていたが、ここ数年はなぜか停滞気味。いつの間にか、同期入社組の一癖ある人材に次々と抜かれ、管理職登用試験に合格しないまま三年が過ぎた八方美男(はっぽうよしお)係長(33歳)。

1年前に八方さんの上司に赴任したA課長(45)は悩んでいた。当初は八方さんの優秀さに大いに感心し、目にかけていたのだが、最近は物足りなさの方が先に立ってしまうのだ。A課長がそう思ってしまう八方さんの行動とは、以下のようなものだ。

・会議では、いつもA課長の意見に賛同してくれるものの、その論調はいかにも「正論」であり、「本当にそれっておまえの意見なの?」と突っ込みたくなるほどきれいごとに聞こえてしまう

・こちらから意見を求めても常に「課長の言う通りでいいと思います」としか言ってくれず、物足りない

・任せているチームメンバーとも仲良くやっているようだが、A課長から見て「ここは強く叱らなくては」と思うような場面でも、なあなあで済ませて、チームを引き締めることができていない

・どうやら彼は自分のことを「うまくやっている」と自己評価しているきらいがある。しかし、それでは次期管理職としてチームを委ねることは危険に思えて仕方がない。折に触れ、彼には「自分の意思を持て」と伝えているのだが、どうもうまく伝わっていないようだ・・・・・・。

いったい、どう接すれば八方さんはわかってくれるのだろうか。そして一皮むけ、次期課長に育ってくれるのだろうか・・・・・・。八方さんが、なまじっか優秀なため、余計に対応に困ってしまうA課長であった・・・・・・。

■ アドラー心理学的分析1 八方さんは八方美人

上司の意向をくむのに長け、チームメンバーとうまくやる。八方さんのライフスタイル(性格)は典型的なプリーザー(喜ばせ屋・八方美人)だ。

アドラー心理学では、一般的に性格と呼ばれる思考様式、行動様式、考え方の癖のようなものをライフスタイルと呼んでいる。そして、アドラーの亡き後、アドラーの教えを引き継いだ高弟たちは、その考え方を広めるために、典型的なライフスタイルのいくつかをタイプ分類にして類型化した。

その中の一つが、今回の八方さんに該当するのではないか、と推測されるプリーザー(喜ばせ屋・八方美人)だ。プリーザーとは、読んで字のごとく、相手を喜ばせることに勢力を傾ける性格を持つ人のことを指す。プリーザーの特徴として、以下のことがあげられる。

・プリーザー(喜ばせ屋)は、人に好かれることをを最大の目標とし、嫌われないために全力を尽くす

・プリーザーは好かれ、嫌われないために、一所懸命に相手の顔色を読み、期待に応えようとする

・プリーザーは、人に好かれ、嫌われないために、自分の主張をせずに、相手に気に入られるよう、カメレオンのように意見を変えていく

・プリーザーは風見鶏のように向きを変えてしまうために、一貫性がなく、かえって人の不信感を買ってしまい信頼を失いがちである。

・プリーザーの人付き合いは本音ではなくきれいごとのため、本当の友情、深い人間関係に至らず、良き人間関係を築くことができない。

・プリーザーは、相手に合わせることを優先するあまり、自分の意見がなく、主体性や自立性を失ってしまいがちである

八方さんを含む部下育成に悩んでいたA課長は、アドラー心理学を学び始めた。そして、その中でA課長は、ライフスタイル分析およびプリーザーの特徴を知ることとなった。

このような特徴はまさに、八方さんそのものではないか!A課長は、八方さんに対する危機意識をさらに高めることとなったのだった。

■ アドラー心理学的分析2 ライフスタイルは持ち物のリストではない。使い方である

「三つ子の魂百まで」という言葉がある。A課長は、プリーザーというライフスタイルを持つ(と推測される)八方さんの特徴を知り、半ばあきらめに近い感覚を持つようになった。

「八方さんは、これが性格なのか。もう変わることはできないだろうな」A課長は思った。しかし、アドラー心理学を学ぶうち、あきらめる必要がないことを知る。アドラーによれば「死ぬ2〜3日前まで、人はいつでも変わることが可能だ」と学んだからである。

アドラー心理学によれば、ライフスタイルは持ち物のリストではなく、持っているものをどう使うか?という使い方の癖である、と考える。であればこそ、八方さんに自らの癖を自覚してもらうことがまずは大切。

自らのライフスタイルに目をつぶらずに直視し、それを認めることさえできれば、自ずと「では、次にどうするか?」を考えざるを得ない、というのである。

つまり、八方さんを例にとるならば、これまで自らがプリーザー(喜ばせ屋、八方美人)である、という自覚を持っていなかった八方さんにその自覚を持たせただけで、八方さんは放っておいても考え始める。
「自分は、他人の顔色をうかがい、期待に応えようと、自分の意思を持たずカメレオンのように生きてきた。それで果たしていいのであろうか?これからもカメレオンで行くべきか?それとも変わるべきなのだろうか?」と。

ライフスタイルは、自分でいつでも変えることができる。そのアドラー心理学の考え方によれば、自らのライフスタイルを知ること、はすなわち、変わるべきか変わらざるべきか?という問いを自らに突きつけることと等しい。もしもA課長が八方さんに現状のアドラー心理学的分析を伝えたならば、そこから先は、八方さんは常に「自分は変わるべきか?変わらざるべきか?」を突きつけられるのだという。それは、これまで自分の八方美人ぶりに目をつぶって見ないようにしてきた八方さんにとっては大きく難しいチャレンジになることであろう。

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■ 対策NG編:「自分の意思を持て」だけでは効果が薄い

上司としてやってしまいがちなのが「自分の意思を持て!」と直球ど真ん中で要望してしまうことだ。しかし、それができたら苦労はない。八方さんは、おそらくは自分が意思を持っていない、ことにさえ気づいていないだろう。

もしもA課長が「意思を持て!」と説教しても、「持っていますよ。A課長に賛成です。それが意思です」と答えるに違いないからだ。そうではなく、まずは鏡を見てもらうことが先だろう。後に伝えるアドラーカウンセリングの技法を用いて、自分自身を知ってもらう。そうすれば、八方さんは、自ら、変わるか、変わらないか?を考え続ける。つまり、必然的に何かしら変わり始めるのだ。

また、同様に「おまえは自分の意思がない!ダメだ!」とだめ出しをしても効果は薄いだろう。そうではなく、自分に直面させるのだ。そして、自分で変わりたい、という意思を持った時に支援をする。それがアドラー心理学のカウンセリングの手法である。

■ 対策OK編: フィードバックではなくフィードフォワード

フィードバックは部下育成に欠かせない重要なスキルである。あるべき姿と現状の乖離を測定し、本人に伝えること。それがフィードバックである。

しかし、これはある意味、ダメ出し、すなわち勇気くじきにつながりやすい。「ここがダメだ」「あそこができていない」このようなフィードバックを頻繁に繰り返すと、相手は勇気をくじかれ「変わること」を恐れてしまうことだろう。

そんな時に有効なのが「フィード・フォワード」というスキルだ。フィード・フォワードとは過去のできていなかったことを伝えるのではなく、未来の予測を伝えることだ。

「八方さん 今のままだと、周囲の信頼を失ってしまうかもしれないよ」「結局、自分の意思を持たないと、リーダーとして経営から任せようと思ってもらえなくなるかも知れないよ」
このように、将来の予測を本人にフィード・フォワードで伝えるのだ。

もちろん、その一環として、八方さんの対応がカメレオンに見えてしまう、ということもフィードバックしていいだろう。そして、あくまでも推測であるが、八方さんのそのような行動の癖は「嫌われたくない」「好かれたい」ということが目的となってしまい、本来の主体性が失われつつある、という分析を伝えてもいいだろう。

アドラー派の心理カウンセリングにおいて勇気づけは常に欠かせない。人が自ら変わろう、とすることは、大変難しいことであり、エネルギーが必要だからだ。そのためには「自分はきっとできる」という自己肯定感、自己信頼が必要だ。そのためにアドラー派のカウンセラーは、変革を求めるだけでなく、同時にたっぷりと根気強く勇気づけを行う。そうして、本人が自己変革に立ち向かう支援を行うのだ。

八方さんを勇気づけ、その上で、八方さんの現状に対するフィードバックを行う。そして、未来を予測し、フィードフォワードを伝える。それらの一連の会話を通じて、八方さんを支援していくのだ。

■ 最後に

心理カウンセリングの技術を職場に応用するのは難しい。心理カウンセリングはそもそも職場の目標達成や利益追求を考えないからだ。しかし、その技術を部下育成や目標達成のチーム運営に活かすことは十分可能だろう。決して、相反するものではない、と私は思う。

本コラムをお読みいただいた読者の皆さんには、そのチャレンジと実践をしていただきたいと思うのだ。それこそが、部下のライフスタイル変革支援であり、同時に私たち自身のライフスタイル変革にもつながるかもしれない。

人はいくつになっても成長し続けることができ、そして変わることができる。そんなアドラー心理学の考え方を、部下の前に上司である私たち自身が実践していきたいものである。

5回シリーズのご愛読、ありがとうございました。

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小倉広メールマガジン

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